ジャクソン・ブラウン──誠実さと詩情のウエストコースト・ソウル

10月9日はジャクソン・ブラウンの誕生日。
ウエストコーストを代表するシンガーソングライターのひとりでありながら、派手さやスキャンダルとはほぼ無縁。いつも真摯に、人生と向き合うように歌を紡いできた人だ。
友人思いで、周囲の仲間から絶大な信頼を得ていたのも有名な話。イーグルスのデビューにも深く関わり、リンダ・ロンシュタット、ジェイムス・テイラー、ボニー・レイットなど、共演者の顔ぶれはまさに“70年代の黄金人脈”そのものだ。

1. 『Late for the Sky』(1974)──喪失と静かな再生


このアルバムこそ、ジャクソン・ブラウンの最高傑作とする声が多い。
冒頭のタイトル曲「Late for the Sky」は、静かなピアノとともに、愛の終わりを淡々と見つめる名曲。

“We’re lying by the ocean / And I’m watching you sleep…”
というフレーズに、もう取り戻せない関係への優しい諦念がにじむ。

また、「Fountain of Sorrow」では、写真という“過去の断片”を通して、自らの若さや愛を見つめ直す。彼の詞には“時間”というテーマがいつも流れている。

2. 『The Pretender』(1976)──理想と現実のはざまで


社会の中で夢を見続けることの難しさを描いたアルバム。
タイトル曲「The Pretender」は、“pretend=ふりをする”という言葉を軸に、

“I’m gonna be a happy idiot / And struggle for the legal tender”
──つまり「幸せなバカになってでも生活のために働く」と歌う。
その皮肉の中に、70年代後半のアメリカの空虚感と、彼自身の人間的成熟が滲む。

決してヒロイックではなく、**「生きること」そのものを受け入れる」**姿勢が、聴く者の胸に沁みる。

3. 『Running on Empty』(1977)──ツアーの日々、旅と人生の交差点


このアルバムは異色作だ。
スタジオ録音ではなく、ツアー中のライブ会場やホテルの部屋、バスの中などで録音された“ロードアルバム”。
彼の代表曲「Running on Empty」は、ツアーバスの中で生きるミュージシャンの孤独と高揚を描く。

“Looking out at the road rushing under my wheels…”
──走り続ける人生の比喩。音も詞もまさに「旅の匂い」に満ちている。

他にも「The Load-Out」〜「Stay」への流れは、彼とバンドメンバー、そして観客との温かい絆がそのまま音楽になったような瞬間だ。

4. 『Hold Out』(1980)──ポリティカルでもヒューマンでもある表現へ


80年代に入っても、ジャクソン・ブラウンの誠実さは揺るがなかった。
「Boulevard」では、ストリートで生きる若者たちの孤独を、「Hold On Hold Out」では、自らを支える愛と信念を歌う。
彼は次第に政治的な発言も増やしていくが、根底にあるのは人間への信頼だ。
「変わってしまった世界の中でも、愛はまだある」という希望を、いつも忘れない。

コヨーテの締めくくり


ジャクソン・ブラウンの音楽には、派手なカタルシスはない。
代わりにあるのは、時間をかけて沁みてくる真実の言葉だ。
大人になってから聴くと、彼の曲の意味がようやく分かってくる。
“Running on Empty”──燃料切れになりそうでも走り続ける人生。
そんな彼の姿勢こそ、今の時代に一番必要な誠実さじゃないかと思う

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