ジョージ・ガーシュインをめぐる旅〜クラシックとジャズを結んだ男〜

ガーシュインという現象


1898年9月26日生まれ。ブルックリン育ち。ロシア系ユダヤ人の移民家庭から、20世紀アメリカ音楽の顔になるまでわずか数十年。
クラシックとジャズ、ミュージカルとシンフォニー、いわゆる「高尚な音楽」と「娯楽音楽」を隔てる壁を軽やかに飛び越え、ポピュラー音楽の基礎を作った存在といっても大げさではない。

華麗な人脈と交流


ブロードウェイの作曲家仲間アーヴィング・バーリン、コール・ポーターとは互いに作品を聴き合い切磋琢磨。バーリンは「彼ほどピアノを弾けたら私の曲はもっと良くなる」と評し、ガーシュインは「バーリンのメロディは天才的だ」と返す。
ヨーロッパではラヴェル、ストラヴィンスキー、プロコフィエフとも面会。ラヴェルに作曲を習いたいと申し出ると「あなたほど稼げるなら、私がジャズを学びたい」と冗談で断られた有名な逸話はあまりにも有名。
また、クラシックの巨匠トスカニーニやラフマニノフにも親交を持ち、ラフマニノフは「彼の和声感覚は本能的で驚異的だ」と語った。

ジャズ界からのリスペクトも厚く、デューク・エリントンやルイ・アームストロングはガーシュインの曲を積極的に取り上げた。後年、ビル・エヴァンスやマイルス・デイヴィスもガーシュイン曲をアルバム単位で録音し、その影響はモダンジャズにまで広がった。
若きレナード・バーンスタインは「ガーシュインこそアメリカ音楽の父」と称賛し、自らの指揮活動で何度もガーシュイン作品を取り上げている。

代表曲5選+おすすめ録音

1. ラプソディ・イン・ブルー

クラシックとジャズの融合。冒頭のクラリネットのグリッサンドだけで世界が変わった。
おすすめ: レナード・バーンスタイン指揮/ニューヨーク・フィル(ピアノもバーンスタイン自身)。スウィング感がありつつ骨太。もう少しジャズ寄りならアール・ワイルドのピアノ版も面白い。

2. パリのアメリカ人

フランス滞在時の体験を管弦楽曲に。街の喧騒やクラクションまで音楽にしてしまった洒落っ気たっぷりの作品。
おすすめ: レナード・バーンスタイン指揮/ニューヨーク・フィル版。映像付きも多く、バーンスタインの演技派ぶりも楽しめる。より端正な演奏ならジョージ・セル指揮/クリーヴランド管もおすすめ。

3. サマータイム(オペラ『ポーギーとベス』より)

20世紀で最もカバーされた曲の一つ。ブルースと子守歌が同居する名曲。
おすすめ: エラ・フィッツジェラルド&ルイ・アームストロングのデュエット版は決定版。クラシカルな方向ならグライムズ指揮版の全曲録音も◎。

4. I Got Rhythm

スタンダード中のスタンダード。ジャズの即興練習で「リズム・チェンジ」と呼ばれる和声進行の元祖。
おすすめ: ガーシュイン自身のピアノロール(録音再現)を聴くと、彼のリズム感が生々しく伝わる。ジャズ寄りならチャーリー・パーカーのビバップ版も必聴。

5. Someone to Watch Over Me

ロマンチックでメランコリックな一面。
おすすめ: エラ・フィッツジェラルドの歌唱が最高。最近ならウィリー・ネルソンやノラ・ジョーンズのカバーも味わい深い。

コヨーテのまとめ


ガーシュインがいなければ、クラシックもジャズも、もっと退屈で、もっと狭い世界だったかもしれない。
「ラプソディ・イン・ブルー」の冒頭を聴くたびに、20世紀の幕開けの疾走感を感じる。
ジャズ好きもクラシック好きも、ここから入れば両方楽しめる──そんな架け橋のような存在だ

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