ノーマン・ブレイク(Teenage Fanclub)──メロディに宿る優しさと、90年代UKロックの記憶

1991年。アナログからCDへ完全に移行した頃。
休日になるとタワーレコードの棚を端から端まで眺め、スタッフの手書きPOPを読みながら未知の輸入盤を探すのが何よりの楽しみだった。
そのとき出会った1枚が、Teenage Fanclub『Bandwagonesque』。
ポップで、ラフで、なのにどこか切なくて。「これがUKロックの新しい波か」と衝撃を受けた。
あとで知ったのだが、このアルバム、当時のNME誌で全英1位に輝いた名盤。

このバンドはソングライターが3人──ノーマン・ブレイク、ジェラルド・ラヴ、レイモンド・マッギンリー。
三人三様の作風ながら、ノーマンの書く曲はひときわメロディが優しく、ポップで親しみやすい。
まさにバンドの“心の灯”だ。

ノーマン・ブレイクというメロディーメーカー


ノーマンの曲は、派手さはない。けれど、じんわり沁みる。
コード進行もアレンジも、どこか「日常の延長線上」にあるのに、気づくと何度も聴いてしまう。
彼の歌には「陽だまり」がある。
それは決して“青春賛歌”ではなく、“昨日と同じ道を歩くことの尊さ”みたいなものだ。

おすすめアルバム5選(ノーマン中心に)

1. Bandwagonesque(1991)

初期の代表作。ノーマン作「The Concept」は、イントロのギターから完璧。
大音量でも小音量でも気持ちいい、まさに“ローファイ・ポップの金字塔”。
当時のNirvana『Nevermind』より上位に選ばれたこともあるという、伝説の1枚。

2. Grand Prix(1995)

全体的に完成度が高く、ノーマン作の「Mellow Doubt」は、アコギとハーモニーが最高。
地味に聴こえるけど、何度でも帰ってきたくなる“帰巣本能系”アルバム。

3. Songs from Northern Britain(1997)

タイトル通り、北イングランドの風のような清涼感。
ノーマン作「I Don’t Want Control of You」は、彼の優しさが凝縮された1曲。
愛や人生を穏やかに見つめる視点が、のちのFanniesの方向性を決定づけた。

4. Man-Made(2005)

米国シカゴ録音。プロデュースはトータスのジョン・マッケンタイア。
少し陰影のあるサウンドながら、ノーマンの「It’s All in My Mind」はやっぱり温かい。
メロディで世界を和ませる力、ここに極まれり。

5. Endless Arcade(2021)

最新期のアルバム。結成30年以上たっても、瑞々しい。
ノーマン作「Home」には、人生の後半に差しかかっても変わらぬ温もりがある。
静かなイントロからじわりと広がるメロディ──まるで“帰る場所”そのものを音にしたようだ。
成熟しても枯れない、ノーマン・ブレイクらしい誠実な一曲。

いまも現役で、変わらぬ温度感

ティーンエイジ・ファンクラブは、結成から35年以上。
ノーマンはカナダに移住しながらも、バンド活動を続けている。
SNSではしょっちゅうファンにリプを返すし、ライブではまるで昔のままの笑顔。
「老成」より「誠実」が似合う男だ。

あとがき──CD棚の片隅に残る“あの頃の風”

Bandwagonesqueを手に取ったあの日、
タワレコの棚には、「スタッフおすすめ!ギターポップの金字塔!」と書かれた黄色いPOPが貼られていた。
まさか30年以上経って、今もこのバンドを聴いているとは思わなかった。
でも、それこそがTeenage Fanclubの魔法。
ノーマンのメロディは、いつまでも“今”の心にフィットし続けるのだ。

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