
経歴とその立ち位置
8月31日、ヴァン・モリソン(Van Morrison)は80歳を迎えました。
「ブラウン・アイド・ガール」のように広く知られた曲もあるにはありますが、彼は決して大衆ヒットの常連ではありません。どちらかといえば、玄人ウケ。シンガーソングライターとしての力量や、独特のソウルフルな歌声、ジャズやブルースを自在に取り込むスタイルは、多くのアーティストに影響を与えました。
北アイルランド出身の彼は、1960年代にR&Bバンド「Them」のフロントマンとしてキャリアをスタート。その後ソロに転じ、60年代後半から70年代にかけて革新的なアルバムを次々と発表します。以降もスタイルを変化させながら、今なお第一線で活動を続ける「生きる伝説」です。
時代ごとのおすすめアルバム+必聴トラック
1. Astral Weeks(1968)
ジャズ、フォーク、ケルト音楽が溶け合った傑作。商業的成功には至らなかったものの、音楽史に残る名盤として数えられ、後のシンガーソングライター像を決定づけました。神秘的で即興性の高い歌唱は唯一無二。
🎧 おすすめ曲:「Madame George」 — 10分を超える叙情詩的な名演。
2. Moondance(1970)
彼の代表作ともいえるアルバム。ジャズやソウルの要素をよりポップに昇華し、親しみやすさと奥深さを兼ね備えています。
🎧 おすすめ曲:「Into the Mystic」 — 穏やかでスピリチュアルな名曲、海と魂をテーマにした永遠の定番。
3. Saint Dominic’s Preview(1972)
アメリカ移住後に制作された作品で、ゴスペルやR&Bの要素が色濃く表れています。
🎧 おすすめ曲:「Jackie Wilson Said (I’m in Heaven When You Smile)」 — 軽快で楽しげ、彼のポップセンスが光る一曲。
4. Into the Music(1979)
70年代後半の集大成的なアルバム。パワフルな歌声とソウルフルなアレンジで、円熟期に入ったことを示しています。
🎧 おすすめ曲:「And the Healing Has Begun」 — 彼の音楽観そのものを表現するようなスピリチュアルな名演。
5. Avalon Sunset(1989)
後期の代表作。「Whenever God Shines His Light」(クリフ・リチャードとの共演)など、穏やかでスピリチュアルな世界観が印象的。
🎧 おすすめ曲:「Have I Told You Lately」 — 後にロッド・スチュワートもカバーした、美しいラブソング。
ヴァン・モリソンに影響を受けたアーティストたち
ブルース・スプリングスティーンは彼を「心の師」と呼び、コンサートでたびたびカバーを披露しています。
ボブ・ディランやエリック・クラプトンもヴァンを敬愛し、彼の音楽的自由さに影響を受けました。
また、U2のボノも同郷の先輩としてリスペクトを公言。アイリッシュ・ソウルの精神は彼らを通じて次世代へ受け継がれています。
コラボレーションと共演の妙
ヴァン・モリソンは多彩なコラボレーションでも知られています。
・ジョン・リー・フッカーと共演した「Gloria」はブルース界との強力な橋渡し。
・レイ・チャールズ、ボブ・ディラン、クラプトンといった錚々たる顔ぶれともセッションを重ねています。
・近年もジョージ・ベンソンやジョーイ・デフランチェスコ(ジャズ・オルガン奏者)と作品を作り、ジャズとソウルのクロスオーバーを続けています。
おわりに
ヴァン・モリソンは派手なヒット曲を連発するタイプではありません。むしろ彼の真価は「アルバム全体を通じてじっくり味わう」ことにあります。フォークでもロックでもソウルでもない、「ヴァン・モリソン」という唯一のジャンル。80歳を迎えた今もなお、彼の声は変わらず力強く響いています。
休日の夜、グラスを片手に Astral Weeks の「Madame George」や Moondance の「Into the Mystic」を流してみてください。彼の歌声が時空を越えて語りかけてくるのを、きっと実感できるはずです。