
■「活動休止」なんて言わせない
10月7日、トム・ヨークが57歳を迎えた。
信じがたいが、もうそんな年齢だ。白髪も増えた。でも、彼の瞳はまだ「未来」を見ている。
「レイディオヘッドは活動休止?」
そんな声を時々耳にするけれど、それは違う。止まっていたわけじゃない。
むしろ――水面下で静かに“再構築”していたのだ。
そしていま、9月から7年ぶりのツアーが動き始めている。
ステージには確かに、あの5人が揃っている。
■レイディオヘッドという“謎”の魅力
コヨーテにとって、レイディオヘッドは「最重要バンド」の一つ。
ロックでありながら、ロックを信じていないバンド。
感情的で、同時に理性的。
人間的でありながら、まるで人工知能のようでもある。
彼らの音楽は、
「混ざりもののないジャンル」ではなく、「境界そのもの」を音にしたような存在だ。
ノイズ、電子音、クラシック的構成、詩のような歌詞──すべてが不安定なまま、奇跡のようにバランスを取っている。
■王道アルバム3選+その一歩先へ
1️⃣ OK Computer(1997年)
“ロックの近未来”を描いた革命的作品。
「Paranoid Android」「Karma Police」「No Surprises」──どの曲も時代を象徴する。
ギター・ロックの枠を壊し、デジタル社会への不安と孤独を先取りしたアルバム。
この作品がなければ、2000年代のオルタナティブはまったく違う形になっていただろう。
2️⃣ Kid A(2000年)
「ロックを拒絶したロック」。
ギターを封印し、ビートとサンプル、シンセに身を委ねた大胆な転換作。
「Everything In Its Right Place」や「Idioteque」で、トムの声は楽器の一部となり、言葉の意味を超えて響く。
最初は戸惑うが、気づけば“人間の内部にある機械音”のように心に残る。
3️⃣ In Rainbows(2007年)
“価格自由”という販売方法が話題になったが、内容はそれ以上。
「15 Step」「Nude」「Reckoner」──柔らかく、温かく、しかしどこか切ない。
レイディオヘッドの中でも最も「人肌」を感じる作品。
完璧主義のバンドが、初めて“余白”の美しさを覚えたようなアルバムだ。
(そして2016年の『A Moon Shaped Pool』で、再び静謐と悲哀の境地に辿り着く。
「Burn the Witch」「Daydreaming」は、老成ではなく、悟りに近い。)
■The Smile:別名義で見せた「自由な顔」
レイディオヘッドの沈黙期、ヨークとジョニー・グリーンウッドが新たに組んだのが The Smile。
ドラマーにはジャズ界の実力派、トム・スキナー。
名前の由来は詩人テッド・ヒューズの作品からで、「穏やかな笑み」ではなく「裏に歪みを含んだ笑い」を意味する。まさに彼ららしい。
■アルバムとその世界
A Light for Attracting Attention(2022)
──レイディオヘッドの延長ではなく、“制約から解放された”作品。
「You Will Never Work in Television Again」は荒々しく、「Pana-vision」は光が差し込むように美しい。
70年代ポストパンクと現代音響が見事に融合している。
Wall of Eyes(2024)
──静と動の間にある緊張。
タイトル曲「Wall of Eyes」は、まるで夢の中を歩くような奇妙な浮遊感。
トム・ヨークの声が“遠くから聴こえる孤独”のようで、胸を刺す。
Cutouts(2024)
──同セッションから生まれた、もうひとつの“影”。
「Zero Sum」「Bodies Laughing」では、レイディオヘッドの精密さと即興の自由が同居する。
聴くほどに、あのバンドの原点と行き先の両方が見えてくる。
■そしていま──ツアー再始動、未来へ
2025年9月、ついにレイディオヘッドが7年ぶりのツアーを開始した。
ロンドン、ベルリン、ボローニャ……各地のステージには、かつてと同じ5人の姿。
静寂のあとに訪れる「再始動」という言葉の重さを、ファンは噛みしめている。
今回のツアーでは、新曲らしき断片も演奏されているという報告もある。
とはいえ、現時点で新アルバムの正式アナウンスはまだない。
おそらく、ツアーでの反応を見てから“次の一手”を決める段階だろう。
■コヨーテの締めくくり
音楽が“完成”した瞬間から、トム・ヨークは壊しにかかる。
その繰り返しがレイディオヘッドの歴史だ。
だからこそ、彼らが再び動き始めた今、次にどんな音が来るか分からない。
だが、それでいい。
わからないからこそ、このバンドを追いかける理由がある。
57歳、トム・ヨーク。
まだ「終わり」には程遠い。
むしろ、いまが第3章の幕開けだ。
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