
クラシックの室内楽と聞くと、貴族が宮中でワイン片手に退屈そうに聴いている…そんなイメージを持っていませんか?
でも、実際に生でピアノトリオを聴いてみると、印象は一変します。ピアノ、ヴァイオリン、チェロ──たった3人なのに、音楽は時にぶつかり合い、時に溶け合い、1+1+1が5にも10にもなる瞬間がある。
ロックでもスリーピースが最強と言われるのと同じ理屈です。
聴いてほしいピアノ三重奏曲とおすすめ盤
シューベルト:ピアノ三重奏曲第1番 変ロ長調 D898
シューベルトらしい、のびやかで歌うような旋律が全楽章にあふれる作品。長大な曲なのに、次々と現れる美しいメロディに耳を奪われ、あっという間に時間が過ぎてしまう。特に第2楽章のしみじみとした優しい歌は、まさに室内楽の醍醐味。
おすすめ盤:スーク・トリオ(Suk Trio)
チェコの名門らしい自然な歌心とバランスの取れたアンサンブルが光る、まさに正統派の名演。
ベートーヴェン:ピアノ三重奏曲第7番「大公」
ベートーヴェン円熟期の傑作で、雄大で明快な第1楽章、愛らしいスケルツォ、深い祈りのような変奏曲の第3楽章、そして生き生きとした終楽章まで、まるで交響曲のような充実感。ピアノ三重奏というジャンルを決定的に成熟させた作品とも言われる。
おすすめ盤:ボザール・トリオ(Beaux Arts Trio)
彼らのベートーヴェンは、スケールの大きさと暖かさを兼ね備え、まさに“王道”。安心して聴ける決定盤。
ブラームス:ピアノ三重奏曲第1番 ロ長調(改訂版)
ブラームスが若き日に書いた情熱的な作品を、晩年に自ら改訂して完成させたもの。若さゆえのロマンと、円熟した構成力が同居する、ブラームスの魅力を凝縮した一曲。特に第1楽章と終楽章は力強く、弦とピアノが絡み合う厚みのある響きに圧倒される。
おすすめ盤:ウィーン・ピアノトリオ(Vienna Piano Trio)
落ち着いた音色と緻密なアンサンブルで、ブラームスらしい重厚さと情感をしっかりと表現している。
ラヴェル:ピアノ三重奏曲 イ短調
フランス印象派らしい透明感と、民族舞曲のリズム感が融合した傑作。第2楽章の狂乱舞踏(パンタローネとコロンビーヌの舞曲)は特に圧巻で、ラヴェルの色彩感覚が爆発している。終楽章は天国的に美しく、曲が終わった瞬間に思わずため息が出る。
おすすめ盤:トリオ・ヴァンダラー(Trio Wanderer)
現代最高峰のフランスのトリオ。切れ味の良さと透明な響きでラヴェルの真価を引き出す。
ショスタコーヴィチ:ピアノ三重奏曲第2番 ホ短調
第2次大戦下、親友の死に際して書かれたと言われる深い鎮魂の音楽。第3楽章のパッサカリアは心に迫る哀歌、そして終楽章は一転して皮肉に満ちた舞曲──聴く者を戦争と人間の現実へ引きずり込む力がある。
おすすめ盤:ボロディン・トリオ(Borodin Trio)
ロシア的な濃厚さと緊迫感で、この曲の悲痛さと激しさをストレートに伝える名演。
コヨーテの締め
ピアノトリオは、クラシック入門にもってこいのジャンルです。
3人だからこそ、それぞれの音がくっきりと聴こえるし、対話や緊張感がダイレクトに伝わってくる。
ライブで聴くと、「3人でここまでやれるのか!」と驚くはず。
ロック好きならなおさら、スリーピース・バンドと同じ熱量を感じられるはずです。
 
  
  
  
  

