
こんにちは、コヨーテです。
10月13日は、ポール・サイモンの誕生日。
彼ほど“静かに世界を動かした”シンガーソングライターは、そう多くありません。
怒らず、叫ばず、けれども社会の矛盾や人の痛みを深く見つめる──その眼差しは、まさに囁く詩人と呼ぶにふさわしい。
静かなる反逆者
1965年、フォークデュオ「サイモン&ガーファンクル」として発表した「The Sound of Silence」。
“Hello darkness, my old friend”──暗闇を“友”と呼ぶ冒頭からして只者ではない。
静かなギターと柔らかな声の奥に、沈黙する社会への怒りが潜んでいた。
叫ばず、説教せず、けれど心に刺さる。
このバランス感覚こそ、ポール・サイモンという人の本質だ。
1986年の『Graceland』では、アパルトヘイト下の南アフリカで現地ミュージシャンと録音。
政治的な批判を受けながらも、アフリカ音楽の魅力を世界に広めた。
声を荒げない反骨──それがポールのやり方だった。
日常を詩に変える人
ポールの歌詞には、社会運動のスローガンも怒りの叫びもほとんどない。
代わりに描かれるのは、どこにでもいる人々の小さな揺れ。
「Slip Slidin’ Away」では、幸せを掴んだつもりが少しずつ指の間からすり抜けていく。
「America」では、恋人とバスに乗り、見知らぬ土地で“自分たちのアメリカ”を探す。
どちらもドラマチックではない。けれど聴いていると、自分の人生の一部のように感じる。
彼の詩は、社会ではなく心の奥の沈黙を映している。
叫ばず、囁く勇気
ディランが“怒りの詩人”なら、ポール・サイモンは“囁く詩人”。
声を荒げないことを弱さと勘違いしてはいけない。
静かに語る人ほど、言葉を選び抜く。
そして、その言葉は長く、深く、聴く者の胸に残る。
ポールの音楽は、暴風ではなく風のような力で時代を動かしてきた。
コヨーテが選ぶおすすめ4枚
『Bookends』(1968)
サイモン&ガーファンクル後期の傑作。
若者の孤独と希望を描いた「America」は、まさにこのアルバムの象徴。
“行き先のない旅”をテーマにした曲が多く、青春の不安と自由が同居している。
詩的で静か、そしてどこか哲学的──ポールの“静かな反逆”が最も鮮明に現れた作品。
『Still Crazy After All These Years』(1975)
ソロとして完全に成熟した時期の代表作。
タイトル曲では、“年月を経てもまだ少しクレイジーなんだ”と自嘲気味に歌いながら、
大人の孤独とユーモアを絶妙に描く。
軽快な「50 Ways to Leave Your Lover」はその裏返しのような楽曲。
ここでポールは、“日常の悲喜こもごもを詩に変える人”として確立した。
 
『Greatest Hits, Etc.』(1977)
ベスト盤の形を借りて、新曲として収録された「Slip Slidin’ Away」。
穏やかなメロディに乗せて、人生の儚さと手の届かない夢を歌う。
この一曲に、ポール・サイモンという人の世界観が凝縮されている。
人生を悟ったようで、まだ何かを探している──そんな“静かな迷い”が美しい。
『Graceland』(1986)
アフリカ音楽との融合という大胆な挑戦。
「You Can Call Me Al」の陽気なリズムに隠された自己風刺、
そしてタイトル曲「Graceland」に込められた“赦し”と“再生”のテーマ。
社会や政治の壁を越え、音楽で世界をつなぐという、ポール流の静かな革命。
“世界の音を受け入れる”という姿勢は、まさに彼の哲学そのもの。
コヨーテの締めくくり
ポール・サイモンは、派手な人生とは無縁だ。
けれど、彼ほど誠実に音楽で人間を描き続けた人はいない。
正しさではなく、誠実さ。怒りではなく、優しさ。
そして、叫びではなく囁き。
静かな言葉ほど、時代を超えて響く。
 
  
  
  
  
