この季節、デヴィッド・ボウイを想う日々

この季節になると、どうしてもボウイを聴いてしまう。
理由はうまく説明できないけれど、少し冷たい空気の中を歩きながら聴くボウイが、やけにしっくりくる。

正直に言うと、心を完全に奪われたのは、ここ10年くらいの話だ。
もちろん昔から、ただ者じゃない才能の持ち主だということは分かっていた。ただ当時の自分には、ヨーロッパ的な陰鬱さを引きずった、近寄りがたいインテリで、化粧の濃い人、という先入観のほうが勝っていた。

「Let’s Dance」でイメージは一度ひっくり返った。
ああ、こんなにポップで分かりやすい曲も書くんだ、と。
でもその直後、正直こうも思ってしまった。
「売れなくなって、エイジアみたいに売れ筋に寄せたのかな」と。
今思えば、ずいぶん失礼な話だ。

その後、しばらく名前を見かけなくなり、勝手に「フェードアウトした天才」みたいな箱に入れていた。
そこへ来ての『The Next Day』。
ぶっ飛んだ。
世界に向かって懺悔したい気分になった。
「すみません、何も分かっていませんでした」と。

そこから一気に遡って聴きまくった。
すると見えてくる。
ボウイは「変身する人」じゃない。
「常に更新され続ける人」だった。

そして2016年1月8日、69歳の誕生日に発表された『Blackstar』。
この歳で、こんなに革新的で、美しく、そして不穏なアルバムが作れるのか、と震えた。
その2日後の訃報。
あまりに出来すぎている。

最初から最後まで、自分の人生を「作品」にしてしまった人。
やっぱりロックスターだったし、やっぱり宇宙人だった。

とても5曲なんて選べないので、ボウイ・ベスト10


順位はあってないようなものだけど、あえて。

Heroes

何度聴いても胸を掴まれる。
「一日だけ英雄になれる」という希望の、あまりに切実な輝き。

Sound and Vision

ミニマルなのに、異様に中毒性がある。
部屋の空気ごと変わる曲。

Changes

ボウイという人間の自己定義。
変わり続けることを恐れない、その宣言。

Young Americans

白人がここまでソウルに肉薄できるのか、という衝撃。
甘さと危うさが同居している。

Under Pressure

クイーンとの共演という事実を抜きにしても、重力のある名曲。
追い詰められた人間の呼吸が、そのまま音になっている。

Life on Mars?

大仰で、演劇的で、でも涙腺を直撃する。
「こんな曲を書いていいのか」と思わせる一曲。

Modern Love

軽やかでポップなのに、どこか孤独。
踊れるのに、救われきらない感じがボウイらしい。

Ashes to Ashes

過去の自分を神話化し、同時に葬り去る。
自己引用すら作品にしてしまう、ボウイの怖さ。

Stars

老成と若さが同居した、不思議な推進力。
復活作の中でも、ひときわ「現在進行形」の曲。


I Can’t Give Everything Away

終章に置かれた、静かな告白。
すべては渡せない。でも、これだけは残す——そんな余韻。

この季節、少し背中を丸めながらボウイを聴いている。
全部を語りきらない声、すべてを説明しないまま終わっていく音楽。

「I Can’t Give Everything Away」。
与えられないものが、まだ残っている。
でも、それでいいのだと、静かに言い切って去っていく。

人生も、音楽も、すべてを回収しなくていい。
むしろ、渡しきれなかったものがあるからこそ、人は聴き続ける。

やっぱり、特別な人だった。
そして今になって、ようやくその「余白」を聴ける年齢になった気がしている。

——デヴィッド・ボウイを聴きながら。