サタニック・マジェスティーズの世界 〜7月26日はミック・ジャガーの誕生日

7月26日はミック・ジャガーの誕生日。そんな日に、あえて語りたいのは『Their Satanic Majesties Request』(1967年)のことだ。

ビートルズ派だった私とストーンズ

中学2年からビートルズのフォロワーになった私にとって、ローリング・ストーンズは長らく「なんとなくわかるけど、そこまで…」という存在だった。アルバムジャケットを見れば「あ、ストーンズかな?」とはわかるものの、リリースの年代順すらいまだに曖昧だ。
世間で名盤と呼ばれる『スティッキー・フィンガーズ』『メイン・ストリートのならず者』『ベガーズ・バンケット』よりも、なぜか心に響いたのが『Their Satanic Majesties Request』だった。

サタニック・マジェスティーズの世間での位置付け

『Their Satanic Majesties Request』は、ストーンズの作品の中でも特異な位置を占めている。1967年のサイケデリック・ブーム真っ只中にリリースされたこのアルバムは、長らく「ストーンズらしくない失敗作」として扱われてきた。
ビートルズの『サージェント・ペパーズ』に対抗して作られたという文脈で語られることが多く、「ストーンズがサイケデリックをやろうとして迷走した」という評価が一般的だった。確かに、その後の『ベガーズ・バンケット』でブルースロックに回帰した流れを見ると、サタニック期間は「寄り道」だったように見える。
しかし、この「寄り道」こそが、実は素晴らしい音楽的冒険だったのではないだろうか。

サタニックの隠れた魅力実験精神の結晶

このアルバムの最大の魅力は、その実験精神にある。メロトロンやシタール、様々な民族楽器が織りなすサウンドスケープは、確かに「らしくない」かもしれないが、だからこそ新鮮だ。

立体音響への挑戦

特筆すべきは、当時としては革新的だった立体音響技術への取り組み。楽器が左右に飛び交う音像は、ヘッドフォンで聴くと今でも驚かされる。

ミックの歌声の多様性

ハードなロックボーカルのイメージが強いミック・ジャガーだが、このアルバムでは囁くような歌声から、エキゾチックな旋律まで、様々な表情を見せている。

知られざるエピソード

制作時期は、メンバーがドラッグで逮捕されるなど、バンドにとって混乱の時期だった。しかし、そのカオスこそが、この作品の自由さを生んだとも言える。
興味深いのは、このアルバムでストーンズが試みた音楽的実験の多くが、後のプログレッシブ・ロックやエレクトロニック・ミュージックの先駆けとなったことだ。時代を先取りしすぎていたのかもしれない。

サタニック好きにおすすめするストーンズアルバム

『サタニック・マジェスティーズ』が好きな人(必ずしもストーンズの熱心なフォロワーでなくても)におすすめしたいアルバムを、実験性と音楽的冒険という観点から選んでみた。

『Their Satanic Majesties Request』(1967年)

「She’s a Rainbow」
メロトロンとストリングスが織りなす幻想的な世界。ポップでありながら実験的な完璧なバランス。

『Between the Buttons』(1967年)

「Ruby Tuesday」
サタニックの直前作から。バロック・ポップ的な要素もあり、実験的でありながら親しみやすい。この楽曲での繊細さは必聴。

『Goats Head Soup』(1973年)

「Angie」
『メイン・ストリート』の後の作品だが、意外に多様性がある。アコースティック・ギターとストリングスによる叙情的なバラード。サタニックとは違うベクトルの美しさ。

『It’s Only Rock ’n Roll』(1974年)

「Time Waits for No One」
ストレートなロックに回帰したように見えて、実は音作りが非常に凝っている。サタニック好きなら、その音響的な工夫を楽しめるはず。

『Black and Blue』(1976年)

「Hot Stuff」
ジャズ・フュージョンの影響が色濃い問題作。賛否両論だが、音楽的冒険心という点では共通項がある。ディスコ・ファンクに接近した大胆な試み。

なぜ今、サタニックなのか

時代が一周回って、『Their Satanic Majesties Request』の価値が再評価されている。現代の多様な音楽シーンでは、「らしさ」よりも「面白さ」が重視される傾向があり、そんな時代にこそ、このアルバムの自由さが光る。
ビートルズ派だった私がストーンズの中で最も愛するアルバムがサタニックだったのは、偶然ではないのかもしれない。それは、音楽の「正しさ」ではなく「美しさ」や「面白さ」を追求した作品だからだ。

おわりに

ミック・ジャガーの誕生日に、あえてマイナーな作品について語ったのは、音楽の楽しみ方に正解はないということを伝えたかったからだ。「名盤」とされる作品を聴かなければならないわけではない。自分の心に響く作品があなたにとっての「名盤」なのだ。
『Their Satanic Majesties Request』は、そんなことを教えてくれる、特別なアルバムなのである。