
8月17日は、XTCの元ベーシスト兼ソングライター、**コリン・モールディング(Colin Moulding)**の70歳の誕生日。
「誰それ?」という反応もあるだろう。XTC自体が一般的には決して大ヒットバンドではなかったし、その中でコリンは派手さを避け、職人気質でバンドを支えてきた存在だからだ。
ひねくれポップの裏ビートルズ
XTCは1970年代後半から90年代にかけて活動したイギリスのバンドで、よく「ひねくれポップの裏ビートルズ」と称される。メロディはキャッチーなのに、どこかねじれていて皮肉や風刺が効いているのが特徴だ。
その中心人物は二人。
• アンディ・パートリッジ:皮肉屋で理屈っぽいオタク気質。
• コリン・モールディング:よりシンプルでポップなメロディを紡ぐ職人。
アンディの毒をコリンのメロディが中和し、コリンの甘さをアンディの毒が引き締める。この二人の関係性こそが、XTCのアルバムを唯一無二のものにしてきた。
コリンの代表曲4選
「Ball and Chain」(1982年『English Settlement』)
建築ラッシュで街並みが壊されていく様子を歌った社会派ソング。軽快なリズムに乗せつつも、歌詞はシニカル。アンディの曲ほど攻撃的ではないが、現実感のある視点がコリンらしい。
「Wonderland」(1983年『Mummer』)
シンセに包まれた幻想的な美メロ。XTCの作品の中でも異色のドリーミーポップで、コリンの“甘さ”が全開。ふっと現実を忘れさせてくれるような曲だ。
「Grass」(1986年『Skylarking』)
牧歌的なアレンジと穏やかなボーカルが魅力。イギリスの田園風景をそのまま音にしたような雰囲気で、アンディの毒の効いた曲群にやさしいコントラストを与えている。
「King for a Day」(1989年『Oranges & Lemons』)
XTCのポップサイドを代表するナンバー。ストレートにキャッチーで、完成度の高いメロディ。もっと売れていてもおかしくなかったと思わせる、コリン流ポップの到達点だ。
コリンという人
アンディが“引っ張るリーダー”だったのに対し、コリンは“安定をもたらす職人”。ただその穏やかさゆえ、アンディと衝突することも少なくなかった。晩年のXTCが活動を停滞させたのも、この不協和音が一因といわれる。
それでも、二人の関係性から生まれる化学反応がXTCの核だった。もしアンディだけなら毒が強すぎ、コリンだけなら甘すぎる。まるでジョンとポールの関係を裏返したように、二人のバランスがバンドの魅力を決定づけていた。
まず聴くべきおすすめアルバム3枚
• 『English Settlement』(1982)
アコースティック要素を取り入れた初期の代表作。社会派ソングとポップメロディが絶妙に混ざり合う。
• 『Skylarking』(1986)
トッド・ラングレンのプロデュースで生まれた名盤。全編に漂うイギリス的牧歌性と、緻密なポップセンスの融合。
• 『Oranges & Lemons』(1989)
明るく色彩豊かなサウンドで、XTCの成熟期を示すアルバム。コリンの「King for a Day」も収録。
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おわりに
コリン・モールディングの70歳を祝うにあたり、改めて思う。XTCの音楽は“ひねくれ”という言葉で片付けられがちだが、そのひねくれを成立させていたのは、コリンのまっすぐなメロディセンスだった。
アンディが作る迷宮に、出口を示すのがコリンの歌。
その二人がそろっていたからこそ、XTCは唯一無二の「裏ビートルズ」たりえたのだ。
今日はぜひ「Grass」や「Wonderland」を聴きながら、コリンの70歳を祝ってみてほしい。