B.B.キングを高原で聴いた|斑尾の記憶とブルースの5枚

高原の野外ステージに置かれた黒いブルースギター Jazz Standard

1984年、斑尾ニューポートジャズフェスティバルに行った。スポンサーはバドワイザー。スキー場のゲレンデに寝転がり、ビール片手に音楽を聴く。青空の下、涼しい風が心地よくて、これ以上ない開放感だった。

当時はフュージョン全盛。スパイロ・ジャイラの出演に胸を躍らせ、小曽根真がゲイリー・バートンと共演して、若き才能を存分に見せつけたのも印象的だった。けれど、一番記憶に残っているのはB.B.キングだ。

肩の力が抜けた笑顔、ギター「ルシール」から流れ出る音。「When It All Comes Down」で会場が一体になり、合唱した瞬間。昼間の高原の空気が震えたのを、今も覚えている。私にとってのB.B.キングは、ブルースの歴史の教科書より先に、あのゲレンデの記憶と結びついている。

下の動画は「When It All Comes Down」の参考映像。ここで紹介する動画は、私が見た斑尾公演そのものの記録として掲載しているものではない。

歌とギターが会話する

B.B.キングのギターは、速さや音数で押し切らない。声でひと節歌い、その余韻へギターが答える。歌と演奏の間にある短い沈黙まで、音楽になっている。弦を揺らすビブラートや、音を持ち上げるチョーキングも、技の見せ場というより声の表情に近い。

ロックのギターソロを聴くとき、私はついフレーズの格好よさに耳を向ける。B.B.キングなら、歌が終わったあとに何を弾くか、そしてどこで弾くのをやめるかを聴きたい。一音の長さや間の取り方で、曲の空気が変わる。

B.B.キングという人

本名はライリー・B・キング。1925年、ミシシッピ州に生まれた。メンフィスでラジオの仕事を始め、「Beale Street Blues Boy」という呼び名が短くなり、B.B.の名につながった。1950年代には「3 O’Clock Blues」の成功で広く知られるようになり、その後も長年にわたって各地のステージへ立ち続けた。

1969年の「The Thrill Is Gone」は代表曲の一つ。ブルースの響きを保ちながら、ストリングスを取り入れた音作りでも知られる。晩年まで新しい共演や録音を重ねた人であり、「王様」という肩書きだけで遠くに置いてしまうのは、もったいない。

まず聴きたい5枚

Live at the Regal|観客も演奏の一部

1964年、シカゴのリーガル・シアターで録音されたライブ盤。まずは「Every Day I Have the Blues」から。歌が入り、ギターが応え、観客の反応が返ってくる。その往復だけで、ステージと客席の距離が分かる。

録音の整い方より、会場の熱を楽しみたい一枚だ。声援に耳を向けると、観客がただ名人芸を見物しているのではなく、歌の中に入っているように感じる。斑尾で覚えている一体感へ戻る入口にもなる。

Completely Well|The Thrill Is Goneを聴く

「The Thrill Is Gone」を収めた1969年のスタジオ盤。弦楽器の響きと落ち着いたリズムの上で、声とギターが際立つ。失われたものを歌う曲なのに、演奏が感情を大げさに説明しすぎないところに惹かれる。

聴きどころは、歌の合間に差し込まれるギターの短い返事。長いソロだけが主役ではない。歌の一節を受けて弾く数音に、その曲の気分が凝縮されている。下の動画は1974年のライブ演奏で、アルバム収録版とは別の表情を楽しめる。

Midnight Believer|私には斑尾につながる一枚

私にとって特別なのは、このアルバムに入っている「When It All Comes Down」。聴き直すと、あの高原で会場が一緒に歌った記憶が戻ってくる。B.B.キングを知るための定番というより、自分の体験へつながる一曲だ。

ブルースと聞いて、渋く重たい音ばかりを想像している人にもすすめたい。リズムの滑らかさや、歌の親しみやすさがある。『Live at the Regal』の熱とは違う、整ったバンドの響きの中でも、B.B.の声とギターは埋もれない。

One Kind Favor|晩年の声の重み

2008年のアルバム。派手な共演の看板よりも、ブルースを歌い、ギターで返すという基本へ耳を向けたくなる。入口には「See That My Grave Is Kept Clean」を。低い声のざらつきと、演奏の落ち着きが耳に残る。

若い頃と同じ勢いを期待するより、ひと節をどう歌うか、一音をどう残すかを聴きたい。長くステージに立ってきた人の、声の重みを味わえる一枚だ。

Riding with the King|クラプトンから入るなら

エリック・クラプトンとの共演盤で、2000年発売。ロックを入口にしてきた人なら、ここから聴くのもいい。表題曲をはじめ、二人の声とギターの違いを楽しめる。

勝負のようにソロの巧さを比べるより、相手の歌やフレーズへどう応えるかを聴きたい。クラプトンに親しんだ耳で聴くと、B.B.キングの短いフレーズやビブラートが、いっそうはっきりした個性として聞こえてくる。

高原で聴いたブルース

B.B.キングのライブは、音を詰め込まず空気を満たす。あの日、涼しい高原の昼間に寝転がって聴いたブルースは、まるで空気そのものになって私を包み込んだ。

ブルースというと、夜の店や、煙たい部屋を思い浮かべるかもしれない。私には青空と、ビールと、ゲレンデが浮かぶ。そんな自分の入口を持てたことが、今も嬉しい。「When It All Comes Down」を、また聴こう。

ジャズの別の入口には、マイルス・デイビスの5枚も。

作品・人物情報:B.B. King公式のBiography/One Kind Favor(Universal Music)/Riding with the King(Eric Clapton公式)。アイキャッチは高原のブルースをイメージしたAI生成画像です。