
いま夢中になっているのは「いつか、無重力の宙で」
最近ハマっているのが、NHK夜ドラ「いつか、無重力の宙で」。
高校の天文学部で青春を過ごした女子4人が、10数年ぶりに再会し、人工衛星の打ち上げを目指すという物語だ。
派手な展開も恋愛要素もないのに、なぜか目が離せない。
キャストが自然で、セリフの一つひとつに“生活の温度”がある。
「VRおじさんの初恋」や「バニラな毎日」にも共通しているが、
NHKの夜ドラには、“日常の中の小さな痛みと再生”を誠実に描く力がある。
来週が最終週。
遥か昔の自分の青春と重ねながら、ほろ酔い気分で見届けたい。
ドラマ10にも傑作が続々
夜ドラだけでなく、火曜夜の「ドラマ10」も粒ぞろいだ。
この枠は、いわば**“地味の中に真実がある”NHKドラマ文化の本丸**である。
まず語らずにいられないのが、河合優実の出世作
『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』。
タイトルの時点で心を撃ち抜かれる。
血縁でも制度でもない、“愛した結果として家族になった”という、
現代の家族観を真正面から描いた秀作だった。
河合の透明感ある演技と、セリフの余白に漂うリアルが、静かに胸を締めつけた。
続く『宙(そら)わたる教室』は、教育現場を舞台にした群像劇。
子どもたちの成長よりも、大人たちの再生を描き、
見えない“希望のリレー”を感じさせた。
『東京レタスボウル』では、SNS時代の承認欲求やジェンダーを鋭く描き、
『幸せは食べて寝て待て』では、誰の人生にもある“ちょっと疲れた夜”を優しく包み込んだ。
どの作品も、派手さよりも人の体温を大切にしている。
そして極めつけが『舟を編む ~私、辞書つくります~』。
言葉を紡ぐ職人たちの世界に、現代の女性がもつ感性と誠実さが編み込まれていく様子が絶妙だった。
言葉という“無重力の海”の中で、人がどう生き、どう結びつくのか──
そんな問いが自然に浮かび上がる作品だった。
ドラマ10の魅力は、どれも**「生き方の選択」をテーマにしている**こと。
社会問題を声高に語るのではなく、登場人物たちの迷いや再生を通して、
観る側が“自分の人生”をそっと見つめ直す時間をくれる。
それが、NHKドラマ10の真骨頂だと思う。
なぜNHKのドラマは秀逸なのか?
理由はいくつかある。
1. スポンサーへの忖度がない
企業CMの顔色をうかがわず、“描きたい人間ドラマ”を作れる。
タブーを恐れずに踏み込める自由さがある。
2. 脚本家・演出家の実験場になっている
映像美、間の取り方、セリフの呼吸──若手クリエイターが挑戦できる場所。
数字よりも完成度で勝負できるのがNHKの強み。
3. “生活の手ざわり”を大事にしている
地域や世代を超えた視聴者に向けて、“人間そのもの”を描く。
見ていて、どこか自分の話のように感じられる。
4. 潤沢な制作体制と職人意識
映像も音楽も照明も、“安っぽくしない”という矜持。
公共放送としての責任が、結果的にクオリティを底上げしている。
結び:大河も朝ドラもいい。でも夜ドラこそ“いまのNHK”
「いつか、無重力の宙で」のような作品は、SNSで大騒ぎになるタイプではない。
でも、見ている人はちゃんと見ている。
青春の残り香を胸に、静かに涙している大人たちが確かにいる。
NHKの夜ドラとドラマ10は、“静かな名作”を生み続ける実験場。
派手さはなくても、心の奥を照らしてくれる。
次はどんな作品で泣かされるのか──ほろ酔いで待ちたい。

