
6月18日はポール・マッカートニーの誕生日。
84歳。
普通ならとっくに「伝説」になっている年齢だが、この人は今も現役感がある。新譜を出せば話題になるし、ライブをやれば世界中のファンが集まる。
生きているうちに聴けてよかった。
そんなふうに最初に思ったのは、1990年のポール・マッカートニー来日公演だった。
高校生の頃、私はWingsの来日公演を楽しみにしていた。ところがご存じの通り、1980年に成田空港での大麻所持事件によってツアーは中止。ポールを生で観る夢はあっけなく消えてしまった。
それから10年。
社会人になったばかりの私は、貧弱な社内人脈を総動員してチケット探しに奔走した。当時は今みたいなネット抽選の時代ではない。とにかく人づてを頼って頭を下げまくるしかなかった。
そして奇跡的に手に入れた東京ドームのアリーナ席2枚。
照明が落ち、バンドが登場し、ポール本人が現れた瞬間の歓声は今でも忘れられない。
「あ、本当にいる」
レコードの向こう側にいた人が目の前に立っている。
その事実だけで胸がいっぱいになった。
大阪から一緒に遠征してきた同級生と、ライブ終了後はよく知らない東京の居酒屋に飛び込み、興奮冷めやらぬまま深夜まで飲んだ。
「あの曲やったな」
「やっぱりポールはすごかったな」
そんな話を延々としていた気がする。
あれから36年。
彼とは今でも毎年飲んでいる。
考えてみれば、ポールのライブは音楽だけでなく、長く続く友情まで残してくれたのかもしれない。
ポール・マッカートニー完全復活を刻んだライブ盤
1989年から90年にかけて行われたワールドツアーは、ポールにとって久しぶりの大規模ツアーだった。
80年代のポールは不遇だった。70年代ほどの勢いがあったと言い難い。
そんな中で発表された『Flowers In The Dirt』が高い評価を受け、満を持して始まったのがこのツアーだった。
その熱気をそのまま封じ込めたのがライブ盤『Tripping The Live Fantastic』である。
ビートルズ、Wings、ソロの代表曲が並ぶセットリストは、まさにポール・マッカートニー総決算。
当時のファンにとっては夢のような作品だった。
ポール・マッカートニーとあの日を思い出す7曲
今聴いても十分楽しめるライブ盤だが、その中でも特に好きな7曲を選んでみた。
思い出補正込みなのは認める。
でも、ライブアルバムなんて本来そういうものだと思う。
聴くたびに東京ドームの景色や、帰りの居酒屋で飲んだビールの味までよみがえってくるのだから。
Figure Of Eight
ライブの幕開けを飾る1曲。もうこのイントロで、コヨーテの視界はすでにぼやけてしまっている。
スタジオ版よりも圧倒的にライブ映えする曲で、ホーン隊まで加わった大編成バンドが一気に爆発する。
「ポールが帰ってきた」
そんな高揚感が会場全体を包み込んだ。
Jet
Wings時代を代表するロックナンバー。
イントロが鳴った瞬間の歓声がすべてを物語る。
1976年のツアー以来しばらく演奏されていなかったこともあり、多くのファンにとって待望の再演だった。
理屈抜きで盛り上がる。
やっぱり名曲だ。
Band On The Run
Wings時代の最高傑作のひとつ。
静かな導入部から一気に駆け抜ける展開は何度聴いても見事だ。
ビートルズ時代の栄光だけでなく、Wings時代にもこれだけの名曲を残したことを改めて実感させてくれる。
My Brave Face
当時の新作『Flowers In The Dirt』から。
共作者はエルヴィス・コステロ。
60年代ポップスへの愛情が詰まったメロディと疾走感のあるアレンジが実に気持ちいい。
当時のポールが再び創作意欲を取り戻していたことを象徴するような曲だ。
Maybe I’m Amazed
個人的なハイライト。
リンダへの愛を歌った名曲として知られるが、この時期のポールのボーカルはまだ絶好調だった。
高音の伸びも素晴らしく、ライブで聴いた時は鳥肌が立った。
今聴いても胸が熱くなる。
Hey Jude
説明不要。
数万人による大合唱。
東京ドーム全体がひとつの巨大なコーラス隊になった。
もともとはジョンの息子ジュリアンを励ますために書かれた曲だが、いつの間にか世界中の人を励ます歌になっていた。
Golden Slumbers ~ Carry That Weight ~ The End
そして締めはやはりこれ。
『Abbey Road』終盤のメドレーである。
ビートルズの最後を飾った名演を、ポール本人が歌う。
それだけで特別だ。
「And in the end…」
あのフレーズが流れるたびに胸が締め付けられる。
ビートルズを知らない世代にもぜひ聴いてほしい、音楽史に残るエンディングだと思う。
今でも一番感動したライブ
あれからポールのライブにはさらに2回行った。
どれも素晴らしかった。
でも、一番感動したのはやはり1990年だった。
たぶん初恋みたいなものだ。
何度会っても最初の衝撃には勝てない。
84歳になった今もポールは現役だ。
もちろん1990年当時の声は出ないし、体力だって若い頃とは違うだろう。
それでもステージに立ち続ける。
その姿だけで十分に価値がある。
私にとって『Tripping The Live Fantastic』は単なるライブ盤ではない。
幻に終わった1980年の来日公演へのリベンジであり、社会人になったばかりの自分の思い出であり、そして36年続く友情のサウンドトラックでもある。
生きているうちに聴けてよかった。
ポール・マッカートニーの音楽を聴くたびに、東京ドームの熱気と、あの居酒屋の生ビールの味を思い出すのである。

