The Strokes『Reality Awaits』〜期待を裏切り続けて、やっぱりストロークス

雨上がりのニューヨークの夜、明かりの灯る店舗と濡れた路面

The Strokesについて以前、「狙っているのに、気負ってない」「無機質でクールなのに、ちゃんとロック」と書いた。

あれから6年。

新作『Reality Awaits』を聴いた。

ところが1曲目「Psycho Shit」を聴いた瞬間、

「おいおい、どうなってしまうんだ?」

と思った。

もちろん悪いという意味ではない。

こちらが勝手に期待していた「ストロークスらしさ」を、いきなり外してきたのだ。

2曲目も、その少し掴みどころのない世界が続く。

ところが3曲目。

「あ、戻ってきた」

乾いたギター、少し投げやりな疾走感。

以前のThe Strokesが顔を出したように聞こえる。

やっぱりここから、いつものストロークスに戻っていくのか。

そう思ったところで、4曲目「Falling out of Love」。

また景色が変わる。

今度は外へ走り出すのではなく、内側へ沈んでいく。

このアルバム、どうも簡単にはこちらの期待する場所へ連れていってくれないらしい。

「Falling out of Love」に引き摺り込まれる

最初に聴いた時より、2回目、3回目の方が圧倒的にいい。

特に「Falling out of Love」。

派手なカタルシスがあるわけではない。大げさに感情を盛り上げるわけでもない。

なのに、気づけば曲の中に引き摺り込まれている。

私はこれ、The Strokes屈指のバラードになったと思う。

若い頃のジュリアン・カサブランカスには出せなかった歌だろう。

「Last Nite」や「Someday」の頃にあった、街角で斜に構えている若者のカッコよさとは違う。

時間が経ってしまったことも、いろいろ面倒なものを抱えてしまったことも、そのまま声の中に残っている。

それでも湿っぽくならない。

ここが、やっぱりジュリアン・カサブランカスなのだ。

「Start Again!」――でも、何を始める?

そして5曲目「Going to Babble On」。

アナログ盤なら、ここからB面という位置になる。

そこでジュリアンが、

「Start Again!」

と叫ぶ。

この瞬間、最初は単純に、

「ほら、戻ってきてやったぜ」

という宣言なのだと思った。

ところが、その次が「Going Shopping」。

考えてみれば、6年ぶりのThe Strokesが新作から最初に世の中へ送り出した曲がこれなのだ。

ならば、本当に言いたかったことは「Start Again!」ではなく、その先にあるのかもしれない。

こんな世の中だけど。

いや、こんな世の中だから。

「俺はモールに買い物に行く」。

なんだそれ、と思う。

でも、ものすごくThe Strokesらしい。

世界について大仰に語るわけでもない。

怒りを拳に変えて振り上げるわけでもない。

軽快なギターを鳴らしながら、モールへ買い物に行く。

もちろん、単なるお気楽なショッピング・ソングではない。

その軽さの向こう側には、今の社会への皮肉や、どうにもならない居心地の悪さが見え隠れする。

もう一度始める。

じゃあ、このどうしようもない現実の中で何をする?

買い物にでも行くか。

6年ぶりのThe Strokesからのメッセージがそれだとしたら、私はかなり好きだ。

あれから6年、何が変わった?

新作を聴いたあと、ひとつ前の『The New Abnormal』を聴き直してみた。

やっぱり、いいアルバムだ。

カサブランカス節大炸裂。

「Bad Decisions」なんて、タイトルでは「間違った選択」と言っているのに、音楽は妙に前向きで希望に溢れている。

アルバムタイトルは『The New Abnormal』――「新しい異常」。

今から考えれば、ずいぶん不穏なタイトルだった。

それでも、あのアルバムにはまだ「なんとかなる」という空気があったように思う。

そして6年。

The Strokesに何があった?

もちろん彼ら自身も歳を取った。ジュリアンも変わっただろう。

でも、変わったのは彼らだけなのか。

この6年間で、世界の方も確実に悪い方向へ向かっている。

戦争があり、社会は分断され、何が本当なのかさえわかりにくくなった。

テクノロジーは猛烈な勢いで進んでいるのに、人間が前へ進んでいるのかはよくわからない。

そんな2026年に出てきたアルバムのタイトルが、

『Reality Awaits』。

「現実が待っている」。

そう考えると、前作から今回への変化も少し違って聞こえてくる。

The Strokesが暗くなったのではない。

彼らの見ている世界が変わった。

いや、世界そのものが変わってしまったのかもしれない。

それでも、買い物に行く

『Is This It』から25年。

「あの頃の音」をもう一度聴きたい気持ちは、私にもある。

でも、彼らが2026年になって『Is This It Part 2』を作ったところで、たぶん一度聴いて満足して終わる。

『Reality Awaits』はそうではない。

期待したものをなかなか出してくれない。

わかりやすい答えも出してくれない。

それなのに、また聴いてしまう。

以前、The Strokesの魅力を「説明不能の“ちょうど良さ”」と書いた。

25年経って、その「ちょうど良さ」は、ずいぶん面倒になった。

そして、この6年間で世界もずいぶん面倒になった。

『The New Abnormal』には、まだどこかに希望があった。

『Reality Awaits』では、その先に「現実」が待っている。

それでも彼らは、世界を救うとも、変えてやるとも言わない。

とりあえず外へ出る。

買い物にでも行くか。

そんなThe Strokesを、私はやっぱり嫌いになれない。