静かに狂っている人──プロデューサー、ジム・オルークの正体

Rock classic

ジム・オルークと聞いて、まず思い浮かぶのは、あの妙に整いすぎた、少し不安になるジャケットの「Eureka」だ。

正直に言うと、最初は完全に「音を読み違えた」。ジャケットから想像するのは、もっと実験的で、ノイズ寄りで、冷たい音。ところが鳴っていたのは、驚くほどメロディアスで、穏やかで、どこか人懐っこい音楽だった。

肩透かし。でも、その肩透かしが心地いい。結果、「名盤」という言葉が一番しっくりきた。

ジム・オルークという人

ジム・オルークは、ジャンルで説明できないタイプの音楽家だ。

  • シカゴ音響派の文脈
  • 即興音楽、ミニマル、現代音楽
  • フォーク、ロック、ポップ

どれも正解で、どれも不正解。本人は「実験音楽家」と呼ばれるのを、たぶんあまり好んでいない。

音は静かだが、態度は過激。前に出るタイプではないが、関わった作品の輪郭を決定的に変えてしまう。いわば「気づいたら支配されている」タイプの黒幕だ。

プロデューサーとしての顔

ジム・オルークの本当の怖さは、プロデューサーとして発揮される。

後から知って、膝を打った人も多いはずだ。

  • くるり『図鑑』
  • Wilco『Yankee Hotel Foxtrot』

特に「Yankee Hotel Foxtrot」。あのバラバラになりそうで、ギリギリ踏みとどまっている音像。ロックなのに、どこか浮遊している感じ。あれはもう、ジムの気配が消えない。

主張しないのに、作品の芯を変えてしまう。これはなかなかできる仕事じゃない。

Eurekaから、Insignificanceへ

コヨーテがさらに好きなのが、次作の「Insignificance」だ。

こちらは一転、ロックの匂いが濃くなる。ギターも前に出るし、バンド感もある。「Eureka」で油断した耳を、少しだけ乱暴に揺さぶってくる。同じ人が作ったとは思えないほど、振れ幅が大きい。この振れ幅こそが、ジム・オルークという音楽家の面白さだと思う。

ジム・オルーク アルバム5選(コヨーテ編)

1. Eureka(1999)
入口にして到達点。静かで、美しく、少し不安。何度聴いても裏切られない。

2. Insignificance(2001)
ロック寄りの名作。ギターの鳴りがいい。普通に「かっこいい」と言っていいやつ。

3. Bad Timing(1997)
インスト中心。アメリカーナと実験音楽の境界線。夜に合う。

4. Halfway to a Threeway(1999)
より抽象的。正直、体調がいい日に聴くのはおすすめしない(笑)。

5. Simple Songs(2015)
晩年(と言っていいだろう)の傑作。タイトルは「Simple」だけど、全然単純じゃない。

まとめ

ジム・オルークは、「わかりやすい天才」ではない。でも、音楽が好きで長く聴いている人ほど、後から効いてくる。

派手な革命は起こさない。ただ、静かに音楽の地形を変えていく。気づいたときには、「いないと困る人」になっている。そういうタイプの音楽家だと思う。

せめて一枚。できれば「Eureka」か「Insignificance」を、少し音量を下げて、じっくり聴いてみてほしい。