ユンディ・リ ― 栄光、沈黙、そして再生の物語

Classic Music

2000年、18歳でショパン国際ピアノコンクールを制したユンディ・リ。若い日の輝かしい出発から、2021年のスキャンダル報道と活動への影響、そして再び舞台へ戻るまで。その歩みを知ってから演奏を聴くと、同じピアノの音にも、以前とは違う関心が向く。

ここでは、確認できる出来事をたどりながら、今のユンディを聴き直してみたい。最後に耳を向けるのは、ショパンではなくモーツァルトだ。

1.栄光――2000年、18歳のショパン

2000年、第14回ショパン国際ピアノコンクールで、ユンディは中国人として初めて第1位を獲得した。1990年と1995年は第1位該当者がなく、1985年以来、15年ぶりの第1位だった。18歳のピアニストが、その空白の先に現れたのである。大会公式/USCの当時の記録

優勝という結果を知ってから聴くと、つい技巧の確かさに注目してしまう。私には、静かな旋律から音楽が大きく動き出すところを聴く方が面白い。ショパンのバラードなら、弱音の語り口と、勢いが増したときにも旋律が残るかに耳を向けたい。

右手の旋律だけでなく、その下の伴奏を聴くと見え方が変わる。左手がどんな揺れを作り、旋律をどこへ運ぶのか。一音の美しさと、長いフレーズの行き先。その両方を追いながら聴くと、受賞歴だけでは見えてこない演奏の表情がある。

2.沈黙――2021年の報道と、活動への影響

2021年10月21日、Reutersは、ユンディが買春の疑いで北京の警察に拘束されたと報じた。警察発表は姓や年齢を示し、人民日報がその人物をユンディと伝えたというものだった。Reutersの報道

翌日のSCMPは、企業や団体が関係を解消し、オンラインでの発信にも制限が及んだと報じている。音楽活動をめぐる環境が大きく変わったことは、当時の報道から分かる。SCMPの報道

それまでの受賞歴や演奏とは別の出来事が、音楽家の名前と強く結びついた時期だった。ただ、その間に本人が何を考え、どんな気持ちでピアノに向かっていたのかは、外からは分からない。

ここでいう「沈黙」は、表舞台での活動や発信が制約された時期を指している。その期間の内面まで、ひとつの物語で説明することはできない。それでも、輝かしい出発だけでは語れない時間を経て、再び演奏が届くようになったことには、耳を向けたい。

3.再生――2023年から、モーツァルトへ

2023年、ユンディはオーストラリアでモーツァルトの公演に戻った。ブリスベンのQPAC公式には、11月1日の「Yundi plays Mozart – Sonata Project 1」の案内が残っている。演目はK.331、K.310、幻想曲K.475、ソナタK.457。復帰の舞台で選ばれたのは、モーツァルトだった。QPAC公式

その年の11月には、ザルツブルクのモーツァルテウム大ホールで録音も行われた。アルバム『Mozart: The Sonata Project – Salzburg』は2024年4月5日に発売されている。舞台への復帰が、新しい録音としても聴けるようになった。Warner Classics公式

私には、モーツァルトは、ショパンとは違う意味で音の輪郭がよく見える音楽に聞こえる。短いフレーズの受け渡し、左手と右手の会話、休符の置き方。派手な盛り上がりを待つより、そうした小さな違いに耳を澄ませたい。

下の映像はWarner Classicsが公開している、ピアノ・ソナタ第14番ハ短調K.457の第1楽章。強く打ち出す音と、応答する柔らかいフレーズの対比が、聴く入口になる。

若い日の栄光と、その後の沈黙を知ったうえで、この演奏を聴く。だからといって、一つひとつの音に本人の苦しみや心境を当てはめるわけではない。私が気になるのは、旋律がどこで息をし、次の音へどう進むかだ。

ショパンからモーツァルトへ。いったん途切れた歩みの先に、また聴くことのできる演奏がある。この「再生」を、まずはその事実と、今届いている音から受け止めたい。

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