MTVで観た「Goodbye Elenore」の超絶ぶりには、圧倒された。
ジェフ・ポーカロのドラムを思い出すとき、私にはまずあの演奏が浮かぶ。TOTOの音楽を根っこから支えた彼の魅力を、今回は4曲から聴き直してみたい。
「産業ロック」じゃ語りきれないTOTOの音楽性
TOTOはよく、「スタジオミュージシャンの寄せ集め」「産業ロック」なんて言われることがあります。確かに、彼らは洗練されたサウンドとプロダクションで、商業的な成功を手にしていました。でもそれは、決して音楽的な妥協の結果ではありません。
むしろ、彼らの音楽には高い技術と情熱が詰まっていました。
中でもジェフ・ポーカロの存在は、TOTOに同時代のバンド――たとえばジャーニーやフォリナー――にはない、独自の魅力と奥行きを与えていました。
ポーカロの凄さが光る名曲たち
『TOTO』(1978)- 「Hold the Line」
ピアノのリフと力強い歌を、ドラムがどっしりと受け止めるデビュー曲。音数を増やすことだけが凄さではない。バンド全体を前へ押し出す一打の強さと、フレーズの収まり方に耳を向けたい。
『Hydra』(1979)- 「99」
柔らかな曲調を支える、抑制の利いたグルーヴ。歌や鍵盤の余韻を邪魔せず、曲の流れに自然に溶け込む。激しく叩けるだけでなく、こうした演奏にもポーカロの魅力がある。
『Turn Back』(1981)- 「Goodbye Elenore」
テクニカルなのに、曲の流れから離れないドラム。複雑なフィルインと安定感のあるグルーヴが同居していて、聴いていてゾクッとする。
私が耳を向けたいのは、短いフレーズをたたみかけたあと、歌のリズムへ戻る瞬間だ。フィルインのたびに演奏が止まるのではなく、勢いがそのまま次の小節へつながる。ギターや鍵盤の切れのよい音と一緒に聴くと、ドラムがバンドの輪郭を作っていることが分かる。
MTVで圧倒された記憶をたどりながら、今度は派手な音の合間にも耳を向けたい。何を足したかだけでなく、歌が入ったときにどれだけ土台がぶれないか。そこにもポーカロの凄さがある。
『TOTO IV』(1982)- 「Rosanna」
冒頭のドラムだけでも、曲が始まる前から体が動く。ゆったりした大きな拍の間で細かい音が跳ねる、ハーフタイム・シャッフルが印象的だ。
強く鳴るスネアの音の間に、かすかな音が入っている。この弱い音がゴーストノート。大きなアクセントだけを追うと見えにくいが、小さな音まで聴くと、リズムが隙間なく詰まっているのではなく、柔らかく揺れていることに気づく。
ドラマーでなくても、最初はスネアの強い一打をつかまえ、次にその間の音を聴けばいい。歌やコーラスが重なったあとも、この揺れが曲全体を運んでいる。技術の説明より先に、ポーカロの気持ちよさを体で感じられる一曲だ。
セッションドラマーとしてのもうひとつの顔
TOTOのメンバーとして活躍する一方で、ポーカロはセッションドラマーとしても数多くの録音に参加しました。
一例が、ボズ・スキャッグスの『Silk Degrees』(1976)。TOTOの結成前に、ジェフ・ポーカロ、デヴィッド・ペイチ、デヴィッド・ハンゲイトがこの作品に参加したことは、TOTO公式のライナーノーツにも記されています。
こうした活動を踏まえてTOTOを聴くと、ロックの力強さと、歌に寄り添うしなやかさが同じ演奏の中にあることに気づく。ドラムだけが目立つのではなく、共演者の音まで生き生きと聴こえる。私には、それもポーカロの凄さに思えます。
早すぎた別れ、でも音楽は生きている
1992年8月5日、ジェフ・ポーカロは38歳でこの世を去りました。音楽界にとっても、TOTOにとっても、その喪失は本当に大きなものでした。
ロックの世界には短命だった天才ドラマーが何人かいます。ジョン・ボーナム、キース・ムーン、そしてジェフ・ポーカロ。彼らの共通点は、ドラムをただのリズム楽器にとどめず、「表現の手段」として極めたところ。
あらためて、彼が残してくれた音楽に耳を傾けてみてください。そしてその音の中に、彼の誠実さ、情熱、そして深い音楽愛を感じ取ってもらえたら嬉しいです。

