自由奔放という才能〜マルタ・アルゲリッチ、永遠の野生児

現存する世界一魅力的なピアニスト

6/5はマルタ・アルゲリッチの誕生日。

奔放で自由ながら、音はとてつもなく美しい。

コヨーテが思うに(というかクラシック音楽に関わる多くの人々も同意すると思うが)、現存する世界一魅力的なピアニストだ。

正確無比なピアニストはたくさんいる。
超絶技巧を持つピアニストもたくさんいる。
でもアルゲリッチには、それだけでは説明できない何かがある。

鍵盤に触れた瞬間、音楽が生き物になる。

予定調和を嫌い、毎回違う表情を見せる。
危うさと美しさが同居している。

まるでジャズの即興演奏のようなクラシック。

それがマルタ・アルゲリッチだ。

1941年、アルゼンチンのブエノスアイレス生まれ。

幼い頃から神童として知られ、8歳で公開演奏会を行う。
その後ヨーロッパへ渡り、数々の国際コンクールで優勝。そして1965年のショパン国際ピアノコンクール優勝によって、一躍世界のトップスターとなった。
 

自由奔放という才能

しかし彼女は一般的な「クラシック界の優等生」ではなかった。

ソロ・リサイタルを突然やめてしまう。
レコード録音を嫌がる。
気分が乗らなければ演奏しない。

クラシック界の常識からすると、かなり困った人である。
ただし「突然やめた」には、理由がある。

舞台恐怖症だ。

あれだけ豪快に弾く彼女が、実は「一人で舞台に立つこと」を深く恐れていた。

広大なホールに座る聴衆を前に、一人でピアノと向き合う孤独。それに耐えられなくなった時期があった。

だから彼女が選んだのが、「誰かと一緒に弾く」という道だ。

デュオ、室内楽、協奏曲。相手がいれば、舞台の孤独は薄れる。

おすすめ欄に「ラ・ヴァルス(連弾)」を入れたのも、実はそういう理由がある。「一緒に弾く」アルゲリッチは、本当に楽しそうだ。

そういう意味では、完全に自分のルールで生きている人だ。

それでも誰も文句を言えない。
なぜならステージに現れた時のアルゲリッチは、誰にも真似できない音楽を生み出してしまうからだ。

恋愛面もなかなか豪快だった。

3度の結婚を経験し、指揮者のシャルル・デュトワとの間には娘もいる。

若い頃から芸術家たちとの交流は華やかで、恋愛も人生の一部として自然体で楽しんできたように見える。

もっとも、彼女の場合は恋愛遍歴よりも音楽そのもののほうがはるかにドラマチックだ。

ステージでは少女のような無邪気さと、猛獣のような集中力が同時に現れる。

80代を迎えた現在も世界各地で演奏活動を続けているが、相変わらず自由人である。

ひとつ、あまり知られていないことを書いておく。
日本との縁が深い。

大分県・別府市で毎年開催される「別府アルゲリッチ音楽祭」は、彼女自身が情熱を注ぐ国際音楽祭だ。若い演奏家の育成の場としても機能しており、クラシック界の次世代を支える取り組みに深く関わってきた。

「自由奔放な天才」というイメージのままに終わらず、こうして地道に「人を育てる場」に根を張っている。それも、日本で。

演奏会の予定変更もある。
録音も多くない。

しかしひとたびステージに立てば、「今この瞬間しか生まれない音楽」がそこにある。

だから世界中のファンは追いかけ続ける。

完璧だからではない。

予測できないからだ。

ロックファンのコヨーテとしては、アルゲリッチはクラシック界のニール・ヤングに近い存在だと思う。

技術を超えたところにある自由。

それこそが最大の魅力なのだろう。

【おすすめアルバム6選】

■ デビュー・コンサート

1960年、18歳頃のライヴ録音。

すでにアルゲリッチ節が完成していることに驚く。
若さゆえの勢いと、後年まで続く圧倒的な推進力が味わえる貴重な記録だ。

■ ショパン:ピアノ・ソナタ第3番/24の前奏曲

1967年録音。

ショパン・コンクール優勝者の面目躍如。
繊細さよりも情熱と生命力が前面に出ている。
ショパンがこんなにスリリングだったのかと驚かされる一枚。

■ ラヴェル:ピアノ協奏曲 ト長調

クラウディオ・アバド指揮、ベルリン・フィルとの名演。

ジャズ的な躍動感とフランス音楽特有の色彩感覚が絶妙。
アルゲリッチの俊敏なタッチが見事にハマっている。

■ ラヴェル:ラ・ヴァルス(連弾)

アレクサンドル・ラビノヴィチとの共演盤。

ウィンナ・ワルツが徐々に崩壊していく狂気を描いた名曲。
二人で鍵盤に襲いかかるような演奏は圧巻で、アルゲリッチの野性的な魅力が全開だ。

■ プロコフィエフ:ピアノ協奏曲第3番

シャルル・デュトワ指揮。

数あるアルゲリッチ盤の中でも代表作の一つ。
超絶技巧が音楽性に完全に奉仕している。
クラシックを普段聴かない人にもおすすめできる。

■ バッハ:パルティータ第2番

若き日の録音。

ロマン派や近現代作品のイメージが強いアルゲリッチだが、バッハも素晴らしい。
構築性と自由さが同居しており、後年の演奏スタイルの原点が垣間見える。
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クラシックは堅苦しい。

そんなイメージを持っている人にこそ、アルゲリッチを聴いてほしい。

きっと驚くはずだ。

クラシックなのに、ロックみたいにスリリングだから。