
同級生の中では、だいたい「兄ちゃんのいるやつ」が、オトナの音楽に目覚めるのが早かった。
コヨーテは一人っ子だったけど、近所に2歳上のアニキ分がいて、洋楽はほとんど彼から教わった。(彼にもさらに二人の兄貴がいたから、情報源としてはかなり強い)
彼の部屋には、Yesの「究極」、52nd Street、そしてA Collection of Beatles Oldiesがあった。
ビートルズはオレの方が詳しかった。でも、ビリー・ジョエルには完全にやられた。
イエスは……正直、当時は何をやってるのかよくわからなかった。長いし。
ビリー・ジョエルの何がすごかったかというと、「都会」だった。
ピアノマンなのに泥臭くなくて、どこか夜の匂いがする。
ロックなのにジャズやソウルが混じっていて、背伸びした高校生にはたまらなかった。
今回は、そんなビリー・ジョエルのアルバムを6枚。
「これを聴けばビリーがだいたいわかる」というより、「人生のどこかで刺さる6枚」を選んでみたい。
■ 『Piano Man』(1973)
まだ垢抜けきらない青年ビリー。
でも、この時点ですでに「人間を見る目」が異常に鋭い。
タイトル曲「Piano Man」はもちろん名曲だが、個人的には「Captain Jack」が強烈だった。
退屈な郊外、ドラッグ、若者の閉塞感。
アメリカなのに、日本の地方都市の高校生にも妙にリアルだった。
おすすめ曲:
・Piano Man
・Captain Jack
・The Ballad of Billy the Kid
■ 『The Stranger』(1977)
多くの人にとっての「決定版」。
捨て曲がほぼない。
「Movin’ Out」はニューヨークの労働者階級の匂いがするし、「She’s Always a Woman」は優しくて残酷。
「Only the Good Die Young」の軽薄さも最高だ。
そして、「Just the Way You Are」。
若い頃は「大人のラブソングだな」くらいにしか思わなかった。
でも歳を取ると、この曲の“受容”の感覚がやたら沁みる。
愛情って、熱量だけじゃなく「相手を変えようとしないこと」なんだなと思わされる。
さらに「Scenes from an Italian Restaurant」。
最初は長くてピンと来なかった。
でも歳を取るほど沁みる。
「あいつ今なにしてるかな」という感情を、ロックでここまで描ける人はなかなかいない。
おすすめ曲:
・Scenes from an Italian Restaurant
・Just the Way You Are
・Movin’ Out
・She’s Always a Woman
■ 『52nd Street』(1978)
コヨーテが最初に夢中になった一枚。
夜の空気がある。
少しジャズ寄りで、大人びていて、「ニューヨーク」という言葉の響きそのものがカッコよかった時代。
「My Life」の開放感。
都会的なのに妙に人間臭くて、「好きに生きるよ」という宣言が嫌味にならない。
そして「Zanzibar」のクールさ。
「Big Shot」の嫌味なカッコよさ。
「Stiletto」の危険な女の描写。
高校生には早すぎた。でも、だからこそ憧れた。
おすすめ曲:
・My Life
・Zanzibar
・Stiletto
・Big Shot
■ 『Glass Houses』(1980)
それまでの都会派ピアノマン像を壊して、ロック寄りに振った作品。
冒頭のガラスを割る音からして宣戦布告みたいだ。
「You May Be Right」の勢い。
「It’s Still Rock and Roll to Me」のひねくれ具合。
でも、このアルバムで一番好きなのは「Sleeping with the Television On」だったりする。
ちょっと寂しくて、ちょっと情けなくて、でもメロディは異常に美しい。
ビリーは「カッコ悪い男」を描くのが本当にうまい。
おすすめ曲:
・You May Be Right
・Sleeping with the Television On
・It’s Still Rock and Roll to Me
■ 『An Innocent Man』(1983)
一見ポップ。
でも、実はかなり変態的なアルバム。
50〜60年代のオールディーズ愛を、本気で再構築している。
単なる懐メロ趣味じゃない。
「Uptown Girl」は有名すぎるけど、「The Longest Time」のアカペラ感覚とか、「Leave a Tender Moment Alone」の甘さとか、作り込みが異常。
この人、「売れるポップス」を作れるのに、根っこはかなり音楽オタクだと思う。
おすすめ曲:
・The Longest Time
・Leave a Tender Moment Alone
・Uptown Girl
■ 『River of Dreams』(1993)
ビリー・ジョエル最後のオリジナルアルバム。
実は、最近いちばん聴く。
若い頃のビリーには「都会への憧れ」があった。
でも、この頃になると、もっと内面を見ている。
人生の折り返しを過ぎた男の、不安や信仰や迷い。
「All About Soul」の深み。
「Lullabye」の父親としての視線。
そしてタイトル曲「River of Dreams」。
明るく聴こえるのに、どこか不穏で、ずっと何かを探している歌だ。
おすすめ曲:
・River of Dreams
・All About Soul
・Lullabye
ビリー・ジョエルは、「ロック界最高の革命家」ではない。
でも、「人生の途中」にずっと寄り添ってくる。
若い頃は背伸びして聴いていた曲が、50代になると急に現実になる。
そういう音楽家だ。
そして昔、近所のアニキの部屋で聴いたあの「52番街」の空気を思い出す。
