憧れのニューヨーク〜5月9日は、Billy Joelの誕生日

同級生の中では、だいたい「兄ちゃんのいるやつ」が、オトナの音楽に目覚めるのが早かった。

コヨーテは一人っ子だったけど、近所に2歳上のアニキ分がいて、洋楽はほとんど彼から教わった。(彼にもさらに二人の兄貴がいたから、情報源としてはかなり強い)

彼の部屋には、Yesの「究極」、52nd Street、そしてA Collection of Beatles Oldiesがあった。

ビートルズはオレの方が詳しかった。でも、ビリー・ジョエルには完全にやられた。
イエスは……正直、当時は何をやってるのかよくわからなかった。長いし。

ビリー・ジョエルの何がすごかったかというと、「都会」だった。

ピアノマンなのに泥臭くなくて、どこか夜の匂いがする。
ロックなのにジャズやソウルが混じっていて、背伸びした高校生にはたまらなかった。

今回は、そんなビリー・ジョエルのアルバムを6枚。
「これを聴けばビリーがだいたいわかる」というより、「人生のどこかで刺さる6枚」を選んでみたい。

■ 『Piano Man』(1973)


まだ垢抜けきらない青年ビリー。
でも、この時点ですでに「人間を見る目」が異常に鋭い。

タイトル曲「Piano Man」はもちろん名曲だが、個人的には「Captain Jack」が強烈だった。
退屈な郊外、ドラッグ、若者の閉塞感。
アメリカなのに、日本の地方都市の高校生にも妙にリアルだった。

おすすめ曲:
・Piano Man
・Captain Jack
・The Ballad of Billy the Kid

■ 『The Stranger』(1977)


多くの人にとっての「決定版」。
捨て曲がほぼない。

「Movin’ Out」はニューヨークの労働者階級の匂いがするし、「She’s Always a Woman」は優しくて残酷。
「Only the Good Die Young」の軽薄さも最高だ。

そして、「Just the Way You Are」。

若い頃は「大人のラブソングだな」くらいにしか思わなかった。
でも歳を取ると、この曲の“受容”の感覚がやたら沁みる。
愛情って、熱量だけじゃなく「相手を変えようとしないこと」なんだなと思わされる。

さらに「Scenes from an Italian Restaurant」。

最初は長くてピンと来なかった。
でも歳を取るほど沁みる。
「あいつ今なにしてるかな」という感情を、ロックでここまで描ける人はなかなかいない。

おすすめ曲:
・Scenes from an Italian Restaurant
・Just the Way You Are
・Movin’ Out
・She’s Always a Woman

■ 『52nd Street』(1978)


コヨーテが最初に夢中になった一枚。

夜の空気がある。
少しジャズ寄りで、大人びていて、「ニューヨーク」という言葉の響きそのものがカッコよかった時代。

「My Life」の開放感。
都会的なのに妙に人間臭くて、「好きに生きるよ」という宣言が嫌味にならない。

そして「Zanzibar」のクールさ。
「Big Shot」の嫌味なカッコよさ。
「Stiletto」の危険な女の描写。

高校生には早すぎた。でも、だからこそ憧れた。

おすすめ曲:
・My Life
・Zanzibar
・Stiletto
・Big Shot

■ 『Glass Houses』(1980)


それまでの都会派ピアノマン像を壊して、ロック寄りに振った作品。

冒頭のガラスを割る音からして宣戦布告みたいだ。

「You May Be Right」の勢い。
「It’s Still Rock and Roll to Me」のひねくれ具合。

でも、このアルバムで一番好きなのは「Sleeping with the Television On」だったりする。
ちょっと寂しくて、ちょっと情けなくて、でもメロディは異常に美しい。

ビリーは「カッコ悪い男」を描くのが本当にうまい。

おすすめ曲:
・You May Be Right
・Sleeping with the Television On
・It’s Still Rock and Roll to Me


■ 『An Innocent Man』(1983)


一見ポップ。
でも、実はかなり変態的なアルバム。

50〜60年代のオールディーズ愛を、本気で再構築している。
単なる懐メロ趣味じゃない。

「Uptown Girl」は有名すぎるけど、「The Longest Time」のアカペラ感覚とか、「Leave a Tender Moment Alone」の甘さとか、作り込みが異常。

この人、「売れるポップス」を作れるのに、根っこはかなり音楽オタクだと思う。

おすすめ曲:
・The Longest Time
・Leave a Tender Moment Alone
・Uptown Girl


■ 『River of Dreams』(1993)


ビリー・ジョエル最後のオリジナルアルバム。

実は、最近いちばん聴く。

若い頃のビリーには「都会への憧れ」があった。
でも、この頃になると、もっと内面を見ている。

人生の折り返しを過ぎた男の、不安や信仰や迷い。

「All About Soul」の深み。
「Lullabye」の父親としての視線。

そしてタイトル曲「River of Dreams」。

明るく聴こえるのに、どこか不穏で、ずっと何かを探している歌だ。

おすすめ曲:
・River of Dreams
・All About Soul
・Lullabye

ビリー・ジョエルは、「ロック界最高の革命家」ではない。

でも、「人生の途中」にずっと寄り添ってくる。

若い頃は背伸びして聴いていた曲が、50代になると急に現実になる。
そういう音楽家だ。

そして昔、近所のアニキの部屋で聴いたあの「52番街」の空気を思い出す。